母の国、父の国
「母の国、父の国」 作:小手鞠るい 発行:株式会社さ・え・ら書房
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少女は、この国で、目立った。
そのために、のけものにされたり、けなされたりすることもあった。
壮絶ないじめに耐えつづけた小学生時代。
世間にプライドを踏みにじられた中学生時代。
うそと裏切りにまみれた恋に苦しみ、母に対する憎しみを覚えた高校生時代。
苦悩の海を越え、絶望の果てに訪れたその国で、少女を待っていたものは―――。
「1行目を書き始めたらやめられなくなって、寝食を忘れてそのまま最後まで書き切ってしまった。
まるで主人公が私に乗り移っているかのように。
物書きになってかれこれ40年が過ぎましたが、このような経験は滅多にできるものではありません。
この作品の主人公とは、境遇も経歴も性格も異なる私なのに、書き上げたとき『この少女は私だ』と、思いました。
彼女の流した涙、彼女が付けられた傷、彼女の闘い、彼女の旅立ち。
あなたにもきっと、身に覚えがあることでしょう。
今、心の傷を抱えて生きるすべての子どもたち、そして、かつて子どもだったすべての大人たちに本書を捧げます。」
―――ニューヨーク州の森の仕事部屋より、小手鞠るい
(さ・え・ら書房HPから)
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久しぶりに一気読みしました。
まあ長さもそんなに長くなくて読みやすかったというのもあります。
主人公笑美理(エミリ)の現在の生活ぶり(大人になったエミリ)から始まって、
過去を振り返っていく、という構成で物語が進行していきます。
エミリは黒人の父とと日本人の母の間に生まれたハーフで、
父親に似て肌の色が黒く、そのため小さいころから差別を受け、
つらい日々を過ごします。
しかも母親はそんなエミリを置いて、男と出奔してしまいました。
預けられたおばさん(?)はとてもいい人で、子どもがいないので我が子同様に接してくれました。
そこが彼女の救いです。
それでも心ない一言が、エミリの心を傷つけることがいくたびかあります。
そのたびに心の傷が、人への憎しみを、社会への憎しみを増大させる。
そんな時、「母の国、父の国」について知り、そこを訪れることになるのです…。
ところどころにエミリ・ディキンスンの詩が挿入され、物語にふくらみを与えています。
もし私が一人の心の傷をいやすことができるなら
私の生きるのは無駄ではない
もし私が一人の生命の苦しみをやわらげ
一人の苦痛をさますことができるなら
気を失った駒鳥を
巣にもどすことができるなら
私の生きるのは無駄ではない
エミリが自分の心を慰めるために、ディキンスンの詩を読む、ということですが
たぶん小手鞠さんもそうだったのでしょうね。
生きていればいやなこと、理不尽なことはたくさんある。
傷つけるのも人なら、救ってくれるのも人なんだと。
そういうことなんだと思います。
大人も子どもも、特に女性の方におすすめしたいです。
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