兄の名は、ジェシカ

兄の名は、ジェシカ

「兄の名は、ジェシカ」 作:ジョン・ボイン 訳:原田勝 発行:株式会社あすなろ書房

4歳年上のジェイソンは、サムの自慢の兄。
おだやかでやさしくて、忙しい両親にかわって、小さいときからサムの面倒をよくみてくれた。
サッカー部のキャプテンで、学校ではみんなの人気者。だけどこのごろ、少し様子が変わったみたいだ。

ジェイソンはある日、自分はトランスジェンダーであり、男であることが耐えられない、と家族の前で告白する。
大好きな兄の変化にサムはとまどい、閣僚の母親、その秘書を務める父親はうろたえる。
おりしも現首相が退任し、サムの母親は有力な次期首相候補になるはずだったが、
ジェイソンのことがマスコミに取り上げられるようになり……。

生物学的な性、社会的な性、そして本人が自覚する性の問題を、家族4人の立場から、わかりやすく、誠実に、時にコミカルに描く。
『縞模様のパジャマの少年』のジョン・ボイン、最新刊!

(あすなろ書房HPより)

男らしい、と思っていたお兄さんが、突然女になってしまった…大げさに言うとそんな感じ。
家族はみなそのことが理解できない。
両親は医者に見せれば治ると考えてそうするが、ジェイソンはそれに反発する。
サムはそんな兄のことを学校でからかわれ、次第に兄がきらいになってくるのだが。

トランスジェンダーの問題を、本人でなく家族の立場から描いた。
これが他人なら「理解してあげなくちゃ」とか思うかもしれないけど、
家族となると「なんでそうなる?やめてくれよ!」と思うだろうね、やっぱり。
家族の間で大きな溝になりそうだよ、こういうことは。
でも本人にしてみれば、一番理解してほしいのが家族、なんだよね。
でも一番理解しにくいのも家族なんじゃないだろうか。
物語では、その辺をどう解決したのかはあいまいだ。
ただ薬を飲んで、ジェイソンはどんどん女性化していく。
見た目も女らしくなっていく。
最後、兄さんのことをジェイソンとしか呼べなかったサムが、
「これは姉さんのジェシカです」と呼べるようになって、
とりあえずの決着はつく。
もちろんこれからも問題は起きるだろう。でもジェイソン、いやジェシカのことを大事に思うのであれば、
それは解決できるのではないだろうか、と思う。
そこにあるのは、家族の愛、である。
自分も家族のことをもっと考えていかなくちゃいけないな、家族の将来のことをもっと考えなくちゃいけないな、
と、この本の趣旨とは違うけれども、ちょっとそんなことを思った次第です。

 

“MY BROTHER’S NAME IS JESSICA” by John Boyne(2019)