太郎の窓

太郎の窓

「太郎の窓」 作:中島信子 発行:株式会社汐文社

太郎は「トランスジェンダー=性同一性障害」だった――
「男らしくしろ、強くなれ」「立派な跡取り息子になれ」と太郎に過度の期待をする父親。
「優しい男の子でもいいじゃないですか」と言いながら、父親の言葉に逆らえない母親。
そして太郎のことをただ一人理解している祖母。
小学校に通うようになった太郎に、次々と苦難がふりかかる…。

 

以前「八月のひかり」という本で貧困の子どもを描いた中島さんが、今度はトランスジェンダーに挑戦です。
70越えの方が描いたとは思えない、「今」をテーマにした本。

学校に通うようになって、太郎はいろいろ嫌な思いをします。
自分は読んでいて「太郎君かわいそう」と何度も思いました。
心と体がばらばらになってしまう。
体は男でも心は女子なんです。
だから大事なぬいぐるみを隠さなきゃならないし、
トイレは個室でなきゃできないし、
プールの授業はとても耐えられないし。
でも、イケメンに成長した太郎君は女子にモテモテだし、
その美しさにひかれる男の子も現れます。

最後におばあちゃんが、かつて友だちがトランスジェンダーで悩んだ末、自殺してしまったことを太郎に打ち明けます。
「太郎、中学生になると、男の子も身体も声も違ってくるし、ひげも生えてくるかもしれないの。
今までとは違う身体に太郎は驚くと思うし、どうしてこんなことになるの、って思うことがあると思うの。
今森さんもそうだったのね。
でもね、太郎、今森さんが苦しんだ時代より、今は太郎のように、心と身体の違う人を理解してくれる人が多くなったのよ。
心と身体の違いをいじめたり、いじわるしたりする人も、必ずみんなと違う自分があるはずなの。
それに気づいても隠しているだけ。
太郎は太郎だけの自分なの。
誰も太郎にはなれない太郎なの。
だから太郎は自分で、自分の力で悲しみや苦しみに立ち向かっていかなければならないのよ」

自分はノーマルです。正直トランスジェンダーの方の気持ちは理解しきれないところもあります。
でもそういう人がいることを認めてあげたい、とは思います。
実際そんな人に出会ったら――優しくしてあげたいと思います。

読みやすい本ですのでぜひご一読ください。

 

“Taro no Mado” by Nakajima Nobuko(2020)