闇の戦い

闇の戦い

「闇の戦い」 作:ウィリアム・メイン 訳:神宮輝夫 発行:株式会社岩波書店

ドナルドは15歳。父親が重病。母親は自分の学校の教師。精神的に不安定な毎日。
そのドナルドが、ある時別の世界に入る。
そこは竜が街を襲っている、中世のような世界だった。
現実と異世界が交錯しながら、ドナルドの心は千々に乱れる…。

ウィリアム・メインは「砂」や「りんご園のある土地」などを書いた人です。
この本も1971年の作だそうですから50年くらい前の本になります。
今の本のようなにぎやかしさはなく、じっくりと情景描写、心理描写が積み重ねられていく本です。
自分は、読みながら「ああ、これぞ文学だ」という感じを持ちました。

内容的には、この物語は現代のパートと異世界のパートが交互に現れるのですが、
少年の心の不安定さを、二つの世界で表現しているのだろうと思います。
病の父といっしょにいたくない、という気持ち。
竜を倒さなければ生きていられない、という状況。
竜は父親の象徴なんだろうか?
そうかもしれない、そうじゃないかもしれない、ただ乗り越えるべき大きな壁なんだろうとは思いました。
父親は厳格な男で、ドナルドにいろいろ注文を付ける。それがドナルドにはわずらわしい。
母親は母親で、父のことを「おとうちゃま」と呼んでいる。
その現実と向き合うこと、それがドナルドに求められている。
竜の世界はあくまでも幻。現実とは違う。
だから、最後にドナルドは竜の世界でなく、現実を選んだ。
一人で竜と戦ったことで、現実を生き抜く勇気を得た、のじゃないだろうか。
なんかうまく言えないけど、そんな感じを持ちましたです、ハイ。

もう売ってないと思うので、図書館で借りてください。
自分はこういう本は好きです。

 

“A GAME OF DARK” by William Mayne(1971)