今、空に翼広げて

今、空に翼広げて

「今、空に翼広げて」 作:山本悦子 発行:株式会社講談社

通学班――なつかしいひびきですね。
小学校には、班ごとに集まって通っていました。
いまでもそれは変わらないようです。
この物語は、そんなある通学班の子どもたちを描いたものです…。

5年生の原田真紀は、通学班で1年のつばさのお守係になってしまっている。
ふらふらと落ち着かないつばさを、そのたびに注意する。
台風で授業が中止になり、集団下校になった日、
つばさの家に誰もいないと知って、真紀はつばさを自分の家であずかった。
ところが、あとで真紀は母親から「つばさとはかかわらないように」
と言われてしまう。
なんで?
それは追い追いわかってくることになるんです。
そして、つばさに降りかかった「のろい」とは?!
お話は班のみんなを巻き込んで意外な展開に…。

ぼくらが子どものころは、近所に住んでる子たちと友だちで、よく遊んでいたので、
通学班と友だちがイコールだったけど、
今はそんなことないだろうねえ。
この物語の子どもたちも、いわゆる「友だち」とはちがうんだけど、
物語が進むにつれて、結束が強くなっていく。
そこがおもしろいところですね。

つばさの家は、シングルマザー&ヤンママで、大ばあちゃんが認知症という、問題家庭でした。
しかも、つばさママは、自分の両親やだんなに向かって「死ね!」と言ったら、本当に死んでしまった、
(東日本大震災で亡くなったという設定)
その呪いが今自分たち家族にふりかかっているんだ、と言うんですな。
そこから、「のろい」とか「言霊」なんて話になる。
なにげなく言い放った言葉が人を傷つけたりすることがありますよね。
子どもたちは、そのことに気づいていく。
そこがこの本の肝ですね。

「言葉って難しいよね。みんな、普通に言葉を使って生きてるけど、
 使い方を間違えると、人を傷つけたり、縛ったり、のろいになったり……。
 わたし、今までそういうこと一度も考えていなかった。」(295p)

班長の6年生里奈のセリフです。優等生の里奈は、「お手本さん」と呼ばれてみんなから一目置かれている=ばかにされている、
わけなんですが、里奈自身「お手本にならなきゃいけない」と自分を縛っていたんですね。
でも、実は自分が優等生でもお手本でもないことに気づく。

「のろい」も言葉の使い方をまちがえたんでしょう。
言葉づかいひとつで、人生が変わっちゃうなんて、なんか怖いです。
でも、言葉を発するしかないんですね、人間は。
怖れず、侮らず、言葉を使っていきましょう。

小学生が主人公、ですから小学生向きなんでしょうが、大人もまあ楽しめると思います。

“Ima, Sora ni Tsubasa Hirogete” by Yamamoto Etsuko(2019)