オオカミが来た朝

オオカミが来た朝

「オオカミが来た朝」 作:ジュディス・クラーク 訳:ふなとよし子 発行:株式会社福音館書店

「『オオカミが来た朝』は、読者の方々を、あるオーストラリア人一家の四世代にわたる
子どもたちの折々の心もように、時をこえてよりそう旅にいざないます。」
1935年から2002年までの折々に、子どもたちが(時に大人も)どんな経験をしたか、
どんなことを考えたかを、6つの短編で描く、連作短編集です。
父親が亡くなって、仕事を探しに冬空を自転車で出ていくケニー。
ボケたおばさんに振り回されるクライティとフランシスの姉妹。
ウガンダを追われて、オーストラリアにやってきたインド人兄弟の苦悩。
などなど――

オーストラリア児童図書賞を受賞した本です。
賞にたがわぬ力作です。
年を追って、子どもたちのその時々の悩みや喜びや悲しみが丹念に描かれていきます。
どのお話もおもしろいのですが、1番は「想い出のディルクシャ」だと思います。
上にも少し書きましたが、政情不安なウガンダから必死で逃れてきたものの、
過去の栄光はまったく消え去り、想い出だけになってしまった。
逃亡中に妹を殺されたことも、幼い2人にはトラウマとなって残っている。
そのトラウマがひょんなことで爆発したとき、子どもたちは自分の中の痛みを知る――。
そんな感じの話。

「ほんの子どもだったのさ」ケニーはそう言うとため息をついた。
「おかしな表現だ、そうじゃないか?『ほんの子ども』――
何か悪いことやひどいことが子どもに降りかかっても、
大人とちがって子どもの心は痛まないとか、何が起きているかわからない、
とでも言っているみたいじゃないか」

印象に残ったところを抜き書きしてみました。
子どもだからわかんないよ、ということはないんです。
子どもだってわかります。
子どもの心の傷は大人よりずっと深いのです。
ぼくたちはそこのところをわかってあげなければ。

ということで、おすすめの一冊になりました。
表紙がもう少しぱっとしてればなー。

“WOLF ON THE FOLD” by Judith Clarke(2000)