むこう岸

むこう岸

「むこう岸」 作:安田夏菜 発行:株式会社講談社

【対象:小学校高学年以上】
第59回日本児童文学者協会賞受賞作品。
児童文学作家、ひこ・田中氏がイッキ読み!
「『貧乏なのはそいつの責任』なんて蹴っ飛ばし、権利を守るため、地道に情報を集める二人。うん。痛快だ。」

小さなころから、勉強だけは得意だった山之内和真は、必死の受験勉強の末、有名進学校である「蒼洋中学」に合格するが、
トップレベルの生徒たちとの埋めようもない能力の差を見せつけられ、中三になって公立中学への転校を余儀なくされた。

ちっちゃいころからタフな女の子だった佐野樹希は、小五のとき、パパを事故で亡くした。
残された母のお腹には新しい命が宿っていた。いまは母と妹と三人、生活保護を受けて暮らしている。

ふとしたきっかけで顔を出すようになった『カフェ・居場所』で互いの生活環境を知る二人。
和真は「生活レベルが低い人たちが苦手だ」と樹希に苦手意識を持ち、
樹希は「恵まれた家で育ってきたくせに」と、和真が見せる甘さを許せない。

中学生の前に立ちはだかる「貧困」というリアルに、彼ら自身が解決のために動けることはないのだろうか。
講談社児童文学新人賞出身作家が、中三の少年と少女とともに、手探りで探し当てた一筋の光。
それは、生易しくはないけれど、たしかな手応えをもっていた――。

(講談社HPから)

まず、表紙の絵で圧倒される。
多分鉛筆で書かれた荒々しいタッチのイラスト。
大都会の交差点で歩道橋からその交差点を眺めている少年(和真でしょう)。
黒いイラストの上に、やはり手書きで黄色い文字「むこう岸」が大書されている。
何やら不安をかきたてられる表紙だ。

内容は上にもあったように、生活保護家庭の樹希と、エリート脱落者和真の物語。
二人とも今置かれている状況から、なんとか脱したいともがき苦しんでいる。
厳しい現実を、直視しようとしている。
さまざまな事件をとおして、二人が成長していく。(私見では特に和真が)

『すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる』
――生活保護法 第一章 第二条

「貧乏は自己責任だという人もいるけれど、この法律はそんなふうには切り捨てない。
努力が足りなかったせいだとか、行いが悪かったせいだとか、過去の事情はいっさい問わない。
ほんとうに困窮している人びとには、すべて平等に手を差しのべようという……。
これを読んだとき、ぼくは人間を信じてもいい気がしたんだ」

以前読んだ『15歳、ぬけがら』ほどのハードさ(!)はないが、きついなりに楽しめる部分もある一冊だと思う。
ぜひお読みください。

“Mukou Gishi” by Kana Yasuda(2018)